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自己炎症症候群

臨床で、発熱はよく遭遇する病態ですが、その治療のためには原因を特定して対処しなければなりません。しかし原因不明な発熱も多く、これを不明熱(fever of unknown origin)といいます。不明熱の定義としては、「発熱が3週間以上持続し,かつ少なくとも3回 38.3℃以上となり,1週間の入院精査にもかかわらず診断の確定しないもの」(RG Petersdorf & PB Beeson, 1961)とされています。一般に不明熱の原因としては以下のものが推認されます。

  1. 感染症

  2. 悪性腫瘍

  3. 膠原病

  4. 自己炎症症候群

肺炎や腎盂腎炎など感染部位が分かれば問題ないのですが、感染巣の不明なときが多々あります。細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの病原体が体内に侵入して発症する病気が感染症なのですが、病原体が体内に侵入しても症状が現れる場合と現れない場合があります。感染症として発病するかしないかは、病原体の病原力と宿主の抵抗力のバランス(host parasite relationship)によって決まります。今般の新型コロナウイルス感染症においても、6歳以下の子供の集団では感染爆発が起こらないことが分かっています。新型コロナウイルスが体内に侵入するための鼻粘膜の受容体が、子供では少ないようです。


感染症を病原体の生体内への侵入様式から大きく分けてみると、垂直感染と水平感染の2種類があります。母子感染とも呼ばれる垂直感染は、妊娠中や出産の際に病原体が胎児に感染するもので、風疹、トキソプラズマ、B型肝炎などがあります。一方、水平感染は、感染源となる人や物からその周囲へと広がって行く感染様式で、接触感染、飛沫感染、空気感染、媒介物感染の4つに分類されます。新型コロナウイルス感染症では、飛沫感染と接触感染が主であったようです。


悪性新生物も不明熱の原因の1つです。悪性新生物の中でも血液のがんといわれる白血病や悪性リンパ腫などでは、白血球の機能異常から感染症を起こして発熱することが多いです。また、腫瘍塊が大きくなる際に内部壊死が起こり、細胞死した腫瘍細胞を免疫細胞が掃除するときに発熱物資が出て発熱することもあります。さらに進行がんなどでは、宿主の免疫力そのものが低下して肺炎などの感染症を合併して発熱するこもあります。


膠原病(collagen disease)は、病理学者Paul Klemperer(1887-1964)が1942年に提唱した疾患概念です。病気が特定の臓器障害から起こるとする「臓器病理学」の立場を離れ、膠原病が全身の「結合組織」が病変の主座であることを示しました。膠原病の病理組織学的変化としてフィブリノイド変性が共通して見られます。膠原病の特徴を列挙すると次のようになります。

  1. 原因不明の疾患

  2. 全身性炎症性疾患   発熱、体重減少、倦怠感、易疲労感

  3. 多臓器疾患   皮膚、関節、腎臓、肺、心臓、神経、筋、消化器、眼、血液 

  4. 慢性疾患   再燃と寛解を繰り返す 

  5. 結合組織のフィブリノイド変性

  6. 自己免疫疾患

発熱は、自己免疫による全身性炎症性疾患である膠原病の特徴の1つです。近年、膠原病に似た疾患として自己炎症症候群が注目されています。


自己炎症とは、1999年Kastner, O'Shea, McDermottらにより、自然免疫系の遺伝性異常症を念頭に考え出された疾患概念です。臨床的には周期性の発熱を主症状とし、関節炎や関節痛・発疹・眼症状・腹部症状等を認めます。膠原病の鑑別疾患の1つです。原因遺伝子が特定されているものを狭義の自己炎症性症候群と定義されています。これには次のような疾患が含まれます。

  1. 家族性地中海熱

  2. TNF受容体関連周期性症候群

  3. クリオピリン関連周期熱症候群

  4. Blau症候群/若年発症サルコイドーシス

  5. PAPA症候群

  6. 周期性発熱、アフタ性口内炎、咽頭炎、頸部リンパ節炎症候群

自己炎症症候群は全身性の炎症を来たす症候群です。感染症や膠原病に類似していますが、

病原体は検出されません。また自己免疫反応にも乏しいのが特徴です。遺伝子変異によりコードされるタンパク質の異常から病気が生じます。診断は、臨床症状と遺伝子検査により確定します。治療は、各症候群で異なり、家族性地中海熱にはコルヒチンが有用です。










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