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ワルチン腫瘍

ワルチン腫瘍(Warthin tumor)は、耳下腺に好発する良性の唾液腺腫瘍で、「腺リンパ腫様腺腫」あるいは「乳頭状嚢胞性腺腫リンパ様組織(papillary cystadenoma lymphomatosum)」とも呼ばれます。この腫瘍は、明確な被膜に包まれ、上皮成分とリンパ成分からなる二相性の組織構造を特徴としています。通常はゆっくりと成長し、無痛性で可動性のある腫瘤として認められ、しばしば両側性または多発性に生じることがあります。


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発症の明確なメカニズムは解明されていませんが、いくつかの危険因子が指摘されています。中でも喫煙は最も明確なリスク因子であり、喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが約8倍高いと報告されています。また、高齢者に多く、特に60歳以上での発症が目立ちます。さらに、唾液腺腫瘍全般と同様に、既往の放射線被曝も関与する可能性があります。


疫学的には、ワルチン腫瘍は唾液腺腫瘍のうち約5〜15%を占め、耳下腺に発生する良性腫瘍としては多形腺腫に次いで2番目に多くみられます。特に中高年の喫煙男性に多く、約10%の症例で両側の耳下腺に発症し、同程度の割合で多発性病変を認めます。臨床的には、耳下腺に出現する無痛性で可動性の腫瘤として発見されることが多く、通常は緩徐に増大します。ただし、嚢胞成分の出血や炎症によって一時的に急速に大きくなることもあります。顔面神経麻痺を伴うことはまれであり、もし麻痺が認められる場合には悪性腫瘍との鑑別が必要です。


診断のためには、画像検査と細胞診が中心となります。まず、超音波検査では境界明瞭な低エコー性腫瘤が描出され、内部には嚢胞性変化やエコーを含む部分が認められます。両側性や多発性の評価にも有用です。CTやMRIでは、多房性嚢胞あるいは嚢胞と軟部組織が混在した腫瘤として描出され、境界は明瞭です。これらの画像所見は、多形腺腫や粘表皮癌など類似疾患との鑑別に役立ちます。まれにPET-CTでFDGの高集積を示すことがありますが、これは悪性腫瘍との鑑別に注意が必要です。


穿刺吸引細胞診(fine-needle aspiration cytology; FNAC)は診断精度が高く、悪性病変の除外にも有用です。上皮成分とリンパ球の混在が観察されるのが特徴ですが、嚢胞性病変の場合は十分な検体採取が難しく、診断が困難なこともあります。


診断は、臨床症状、画像検査、細胞診の所見を組み合わせて総合的に判断され、最終的な確定診断は外科的切除後の病理組織診断により行われます。鑑別診断としては、多形腺腫、粘表皮癌、腺様嚢胞癌、唾液腺嚢胞やリンパ節転移などが挙げられます。


治療の基本方針は、外科的切除です。耳下腺の部分切除または表在葉切除が推奨され、特に腫瘍が増大傾向にある場合や、悪性との鑑別が困難な場合、または審美的・心理的理由で患者が希望する場合に手術の適応となります。一方で、高齢者や全身状態に問題がある患者、あるいは増大傾向がなく無症候性の場合には、慎重な経過観察が選択されることもあります。

術式としては、表在葉切除(superficial parotidectomy)が標準で、顔面神経の温存を前提とした安全な手術として広く行われています。腫瘍摘出(enucleation)再発率が高いため原則として推奨されません。両側性や多発性、再発例では全摘出術(total parotidectomy)が検討されることもあります。


予後は非常に良好であり、再発はまれで、仮に再発しても再手術で十分対応可能です。ワルチン腫瘍の悪性化は極めてまれであり、報告されている文献でもその頻度は0.3〜0.5%未満とされています。ただし、両側性や多発例では長期的なフォローアップが望まれます。



ワルチン腫瘍と類似疾患の比較

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参考文献

1.       Eveson JW, Auclair PL, Gnepp DR. “Warthin tumor.” In: WHO Classification of Tumours. Pathology and Genetics of Head and Neck Tumours. IARC Press, 2017.

2.       Triantafillidou K, Dimitrakopoulos J, Iordanidis F, et al. “Management of parotid gland tumors: A 10-year experience.” J Oral Maxillofac Surg. 2010;68(7):1451–1457.

3.       Seethala RR. “Histologic classification and molecular markers of salivary gland tumors.” Head Neck Pathol. 2009;3(1):45–67.

4.       日本耳鼻咽喉科学会 編『唾液腺腫瘍診療ガイドライン 2023』. 南江堂.


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