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ノロウイルス感染症

ノロウイルス感染症は、ノロウイルスによって引き起こされる急性胃腸炎であり、主に経口感染を通じて伝播します。感染すると、嘔吐、下痢、腹痛などの症状が現れ、特に冬季に流行する傾向があります。感染力が非常に強く、少量のウイルスでも感染が成立するため、集団感染の原因となることが多い点が特徴です。


 

この疾患の原因となるノロウイルスは、Caliciviridae(カリシウイルス科)に属する非エンベロープRNAウイルスで、ヒトに感染する代表的なウイルスのひとつです。主な感染経路としては、加熱不十分な二枚貝などの汚染食品や水の摂取、感染者の糞便や嘔吐物との接触、汚染された環境や物品の接触、さらには飛沫やエアロゾルによる感染が挙げられます。これらの経路を通じて、ノロウイルスは容易に拡散し、集団感染を引き起こします。

ノロウイルス感染症は世界中で報告されており、日本では毎年10月下旬から流行が始まり、12月上旬から中旬にピークを迎える傾向があります。感染者の年齢層は幅広く、特に高齢者施設や医療機関、保育施設などでの集団感染が多く報告されています。

 

感染の潜伏期間は通常24〜48時間であり、主な症状としては嘔吐、水様性下痢、腹痛、吐き気、軽度の発熱などが現れます。これらの症状は1〜3日で自然に軽快することが多いものの、脱水症状を引き起こす可能性があり、特に小児や高齢者では重症化のリスクがあるため注意が必要です。

 

診断に用いられる検査には、迅速診断が可能な便中抗原検出キット(イムノクロマト法)や、ウイルスRNAを高感度に検出できるRT-PCR法があります。特にRT-PCRは感度・特異度が高く、確定診断に有用です。これらの検査は、患者の症状や流行状況に応じて適切に選択されます。

 

診断は、臨床症状と地域の流行状況、検査結果を総合的に判断して行われます。特に冬季に嘔吐や下痢の患者が複数発生している状況では、ノロウイルス感染が強く疑われます。検査結果が陽性であれば確定診断とされます。

 

現在、ノロウイルス感染症に対する特異的な抗ウイルス薬は存在せず、治療は主に対症療法となります。まず重要なのは脱水の予防と補正であり、経口補水液(ORS)や必要に応じた点滴による水分・電解質補給が推奨されます。症状が軽減した後は、消化に良い食事から徐々に通常の食事へと戻します。止瀉薬については、ウイルスの排出を遅らせる可能性があるため、一般的には使用を控えるべきとされています。また、感染拡大を防ぐために、患者の隔離と厳格な衛生管理が求められます。

 

ノロウイルス感染症は通常は数日で自然に回復しますが、脱水や誤嚥による肺炎などの合併症を契機に、特に高齢者や免疫力が低下している人では重症化することがあります。高齢者施設や病院での集団感染では、基礎疾患の増悪や誤嚥による合併症により入院や死亡に至るケースもあります。また、小児では脱水や嘔吐物の誤嚥による呼吸器合併症に注意が必要です。

 

ノロウイルスの感染力は極めて強く、少数のウイルス粒子でも感染が成立するため、感染予防と制御は非常に重要です。基本となるのは手指衛生であり、石けんと流水による十分な手洗いが最も効果的です。アルコール系消毒剤はノロウイルスに対して効果が不十分であるため、特にトイレ使用後や嘔吐物・下痢物の処理後、食事の前などには石けんを用いた手洗いを徹底する必要があります。

 

環境消毒には塩素系消毒薬(次亜塩素酸ナトリウムなど)が有効であり、環境表面には0.02%(200ppm)、嘔吐物や便の処理には0.1%(1000ppm)の濃度が推奨されます。嘔吐物や便の処理には手袋・マスク・エプロンを着用し、ペーパータオルで外側から内側に向かって拭き取った後、適切に廃棄・消毒を行い、十分な換気も併せて行います。感染者は可能であれば個室で療養し、症状が消失した後も1週間以上ウイルス排出が続くことがあるため、感染防止に継続的な注意が必要です。

 

一部の特殊な症例では、ノロウイルス感染が長期化することがあります。高齢者や免疫不全状態の患者(がん化学療法中、臓器移植後など)では、感染が慢性化し、数週間〜数か月にわたってウイルスが排出され、慢性下痢や栄養障害が問題となることがあります。これによりQOLの著しい低下をきたすこともあるため、特に注意が必要です。


ノロウイルスに対する有効なワクチンは現在のところ実用化されていませんが、多くの研究が進行中です。ウイルスには多様な遺伝子型が存在し、自然感染による免疫も型特異的で短期間しか持続しないため、ワクチン開発は困難を伴っています。ただし、近年はmRNA技術やウイルス様粒子(VLP)を利用した候補ワクチンの開発が進み、現在複数の製薬企業が臨床試験段階にあります。今後の実用化が期待されています。


参考文献

  1. 国立感染症研究所 感染症情報センター. ノロウイルス感染症.

    https://www.niid.go.jp/niid/ja/noro-m.html

  2. 日本感染症学会・日本化学療法学会 編. 「感染症診療ガイドライン:消化管感染症」2021年改訂版.

  3. 厚生労働省. ノロウイルス等による感染性胃腸炎に関するQ&A.

    https://www.mhlw.go.jp

  4. Hall AJ, et al. "Norovirus Disease in the United States." Emerging Infectious Diseases, CDC, 2013.

  5. Karst SM, et al. "Pathogenesis of Noroviruses, Emerging RNA Viruses." Annual Review of Virology, 2015

 



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