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睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)は、睡眠中に反復的な呼吸停止(無呼吸、apnea)または呼吸低下(低呼吸、hypopnea)が生じる疾患で、睡眠の質を著しく低下させ、さまざまな身体的・精神的健康障害のリスクを高める疾患群である。SASは大きく三つに分類され、最も頻度の高い「閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea: OSA)」は、睡眠中の上気道の虚脱または狭窄によって空気の流れが遮断されることにより発症する。一方、「中枢性睡眠時無呼吸(Central Sleep Apnea: CSA)」は、呼吸中枢からの信号伝達の異常によって呼吸努力自体が消失するタイプであり、心不全や脳卒中などの基礎疾患と関連することが多い。また、「混合型」はOSAとCSAの両方の特徴を併せ持つ。


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OSAの主な原因は、肥満や解剖学的異常(扁桃肥大、小顎症、鼻中隔弯曲など)による上気道の閉塞である。加齢、男性、アルコールや睡眠薬の使用、喫煙といった生活習慣因子もリスクを高める。CSAは、高地での生活、重度心不全、脳幹障害、薬物使用(特にオピオイド)などが背景に存在することが多い。日本におけるOSAの有病率は成人男性で約3~7%、女性で約2~5%とされ、男女比は男性に多い。特に肥満率の上昇や高齢化に伴い今後さらに増加が予測されている。


SASの臨床症状は多岐にわたり、夜間の主な症状として大きないびき、呼吸停止、頻回な覚醒、夜間頻尿などが挙げられる。日中には、強い眠気、集中力や記憶力の低下、朝の頭痛、倦怠感、抑うつ症状などがみられ、これらは日常生活や仕事のパフォーマンスに大きな影響を及ぼすほか、交通事故や労働災害のリスク増加にもつながる。


診断にはまず問診とスクリーニング検査が行われ、Epworth眠気尺度(ESS)などの質問票も用いられる。初期診断には簡易睡眠検査(携帯型装置による自宅検査)が使用されるが、確定診断には終夜ポリソムノグラフィー(PSG)が必要である。PSGでは脳波、眼球運動、筋電図、呼吸運動、酸素飽和度などを包括的に評価し、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(無呼吸低呼吸指数:Apnea-Hypopnea Index: AHI)を算出する。PSG検査のための入院日数は通常1泊2日である。高額な入院1時金を狙ったPSG検査入院による不正請求が増えている。


診断基準として、AHIが5以上かつ日中の過眠などの臨床症状を有する場合、あるいはAHIが15以上であればSASと診断される。重症度はAHIに基づき、5~14を軽度、15~29を中等度、30以上を重度と分類する。下表参照。

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無呼吸指数(Apnea Index; AI)では、1時間当たり5回以上をSASという。また低呼吸(Hypopnea)とは、換気の明らかな低下に加え、動脈血酸素飽和度(SpO2)が3~4%以上低下した状態、もしくは覚醒を伴う状態をいう。


治療は重症度と患者の背景によって異なるが、基本は生活習慣の改善と器械的療法である。体重の減少は上気道の開存性を保つ上で極めて重要であり、禁煙や禁酒、仰臥位での睡眠回避も推奨される。中等度以上のOSAに対しては、持続陽圧呼吸療法(CPAP)が第一選択であり、これは鼻や口に装着したマスクを通じて一定の圧力の空気を気道に送り込み、閉塞を防ぐものである。CPAPの治療効果は高いが、装置の違和感や騒音により継続率が低下することもあり、患者教育と適応支援が重要である。


軽度から中等度のOSAやCPAP不耐容例では、下顎を前方に移動させる口腔内装置(Oral Appliance: OA)の使用が有効であり、睡眠時に下顎を前方に固定することで上気道を広げる。また、上気道の解剖学的異常が原因と判断される場合は、軟口蓋の形成術(UPPP)や顎矯正手術などの外科的治療も検討される。薬物療法に関しては、2020年時点で明確に推奨される薬剤は存在しないが、肥満を伴うOSAにおいては、体重減少を目的としたGLP-1受容体作動薬(セマグルチドやチルゼパチドなど)が間接的な改善をもたらす可能性があり、今後の研究が期待される。


SASを放置した場合、その予後は不良となる。OSAは高血圧、心房細動や心不全、脳卒中、冠動脈疾患などの心血管疾患の独立した危険因子であり、また2型糖尿病、脂質異常症などの代謝性疾患とも関連が深い。さらに、慢性的な睡眠不足と低酸素状態は、うつ病や認知機能障害の進行にも関与する。適切な治療と継続的なフォローアップによって、これらの合併症リスクを有意に低下させることが可能であり、生活の質(QOL)の向上とともに、長期的な健康維持に寄与する。


参考文献

  1. 日本呼吸器学会. 睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドライン2020.

  2. American Academy of Sleep Medicine (AASM). Clinical Practice Guidelines.

  3. Arzt M, et al. "Obstructive Sleep Apnea and Cardiovascular Disease." Nat Rev Cardiol. 2021.

  4. Javaheri S, et al. "Sleep Apnea: Types, Mechanisms, and Clinical Cardiovascular Consequences." J Am Coll Cardiol. 2020.

  5. Nakayama H, et al. "Clinical Practice Guideline for Sleep Apnea Syndrome in Adults." Respir Investig. 2021.












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