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原発性免疫不全症候群

原発性免疫不全症候群(Primary Immunodeficiency; PID)は、先天的あるいは遺伝的な要因によって免疫系の機能が障害される疾患群である。その結果、患者は日常的な病原体に対して通常よりも重篤かつ持続的な感染を呈しやすく、さらに自己免疫疾患、悪性腫瘍、アレルギー疾患、免疫調節異常などの多彩な臨床像を示す。これらは「inborn errors of immunity(IEI)」とも称され、国際免疫不全連合(IUIS)の2022年の分類では、500種類を超える遺伝子異常に基づく485以上の疾患が10のカテゴリーに分類されている。


PIDの主な原因は、単一遺伝子変異による免疫系構成要素の形成異常や機能不全である。遺伝形式としてはX連鎖劣性、常染色体劣性および優性、さらにはde novo変異による孤発例も知られている。代表的な疾患として、X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA:BTK遺伝子変異)、重症複合免疫不全症(SCID:IL2RG、JAK3、ADAなどの変異)、慢性肉芽腫症(CGD:NADPHオキシダーゼ関連遺伝子異常)などが挙げられる。


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疫学的には、PIDは稀少疾患群に属し、日本においてはおおよそ10,000人に1人の割合で発症していると推定される。かつては診断の遅れがしばしば致命的な転帰を招いていたが、近年では新生児スクリーニングや次世代シーケンス(NGS)の進歩により、早期診断・早期治療が可能となってきた。特にSCIDは、新生児期に発症し、迅速な対応が生死を分けることから、一部の国ではスクリーニング対象疾患に組み込まれている。


臨床症状は極めて多彩であるが、最も顕著なのは易感染性である。特に肺炎や中耳炎、敗血症、髄膜炎などの重症化する細菌感染が反復する点が特徴である。加えて、カンジダやサイトメガロウイルスなどの日和見感染、自己免疫性血小板減少症や関節炎といった自己免疫疾患、さらにはリンパ腫などの腫瘍発生もみられる。乳児期からの発育障害や、生ワクチン接種後の異常反応(例:BCG感染)も鑑別の手がかりとなる。米国免疫不全財団(IDF)は、臨床医がPIDを早期に疑うための「10の警告サイン」を提唱しており、特に小児科外来などで有用である。


診断のためには多層的な検査が求められる。初期評価として、末梢血算(白血球分画)、免疫グロブリン定量(IgG, IgA, IgM, IgE)、ワクチン抗体価測定が基本である。さらに、専門施設ではリンパ球サブセット解析(CD3, CD4, CD8, CD19, NK細胞など)や、酸化バースト試験(NBTまたはDHR試験)、さらには疾患特異的な機能検査が行われる。近年では、臨床所見と検査所見に加えて、NGSや全エクソーム解析(WES)による分子的診断が急速に進んでおり、これが診断確定の鍵となることも多い。


診断基準は、欧州免疫不全学会(ESID)および日本免疫不全・自己炎症学会による定義が参照される。臨床症状と免疫学的検査所見、家族歴を組み合わせ、遺伝子異常が同定されれば確定診断となる。IUISの2022年版分類では、PIDは大きく以下の10群に分類されている。


①複合型免疫不全

②抗体欠損症

③複合免疫不全+症候群型

④食細胞異常

⑤自然免疫異常

⑥補体異常

⑦自己炎症症候群

⑧免疫調節異常

⑨骨髄不全型

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これらは疾患の病態理解と治療方針の決定に重要である。査定カフェのひな形


治療方針は疾患の型によって異なるが、基本的には感染予防と免疫機能の補充・再構築が中心となる。頻回感染を防ぐために、抗菌薬や抗真菌薬の予防投与(例:ST合剤やアジスロマイシン)を行い、免疫グロブリン補充療法(IVIGまたはSCIG)を実施する。IVIGは感染歴や免疫グロブリン消費速度に応じて、0.4~0.6g/kgを3~4週間ごとに静注する。抗体欠損症(例:XLA、CVID)では生涯にわたるIVIGが必要となる。

疾患特異的治療として、SCIDや重症CGDなどでは造血幹細胞移植(HCT)が第一選択であり、適合ドナーが得られれば早期移植が予後を大きく改善する。ADA欠損症やX連鎖型SCIDなど一部の疾患では、欧州で既に遺伝子治療が承認されており、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入による治療も臨床応用されている。日本においても治験が進んでおり、今後の実用化が期待される。


予後は疾患の型、診断の早さ、治療へのアクセス状況に大きく依存する。SCIDのように治療のタイミングが生存率に直結する疾患では、新生児期の診断と迅速なHCTが極めて重要である。一方で、抗体欠損型の疾患では、定期的なIVIGと感染予防によって、良好な生活の質が長期間にわたり維持される症例も多い。さらに、近年は遺伝子治療や分子標的薬の進歩により、従来治療が困難であった型に対しても治療の可能性が広がりつつあり、今後の治療戦略の多様化が期待される。


(参考)

1.       Tangye SG, et al. Human Inborn Errors of Immunity: 2022 Update on the Classification from the IUIS. Front Immunol. 2022;13:1091792.

2.       日本免疫不全・自己炎症学会. 原発性免疫不全症候群診療ガイドライン2023.

3.       Picard C, et al. Primary Immunodeficiencies Underlie Susceptibility to Infection. Annu Rev Immunol. 2022;40:405–434.

4.       Notarangelo LD. Primary Immunodeficiencies. J Allergy Clin Immunol. 2023;151(4):866–876.

5.       Jeffrey Modell Foundation. 10 Warning Signs of Primary Immunodeficiency.

6.       日本小児科学会. 新生児スクリーニングにおけるTREC検査の有用性. 2023.

7.       武田薬品 原発性免疫不全とは https://www.takedamed.com/health/plasma-derived-therapies_pid/


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