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原発性線毛運動不全症

線毛とは、細胞表面の細長い突起で、運動線毛と一次線毛に分けられます。線毛細胞とは、百数十本の運動線毛を持った細胞で、気道上皮や生殖器系上皮に見られます。線毛運動により、気道では異物が除去され、女性生殖器では排卵された卵子が卵管を子宮へと運ばれます。インフルエンザウイルスが気道に感染すると、早期から線毛運動が活性化されウイルス排泄に寄与することが、2020年10月27日国際医学雑誌「Respiratory Research」に報告されました。これは、新型コロナウイルス感染症などのRNAウイルスに対する気道の生体防御を担っていると考えられます。





原発性線毛運動不全症(Primary ciliary dyskinesia; PCD)は、線毛の超微構造の異常による線毛の機能不全症で、完全な不動線毛症例や微弱な線毛運動、協調性のない線毛運動を呈する症例が認められます。気道上皮細胞などに存在する運動性線毛や精子鞭毛の機能的障害を来し,臨床的には副鼻腔気管支症候群の特徴や不妊症、内臓逆位など呈する症候群をいう。気道クリアランスの障害により進行例では気管支拡張の進展により呼吸不全を来します。約2万人に1人の確率で起こると言われています。


PCDは、線毛に関連する遺伝子の変異によって起こる先天性疾患で、主に気道上皮にある線毛の構造や運動に異常がある病気です。慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、内臓逆位の3主徴が見られる場合、カルタゲナー症候群(Kartagener syndrome, 1933年)と言われます。今日では、カルタゲナー症候群はこのPCDの中の一病型と考えられています。


PCDの特徴は、幼少期から鼻水、咳、痰などが慢性的に生じ、感染症を起こしやすいことです。慢性湿性咳嗽は、PCDに最もよく見られる症状です。肺病変の主体は気管支拡張症で、成人では全症例に見られます。


線毛は脳内や卵管、眼球内にも存在するため、PCDではこれらの線毛の機能障害(水頭症や嗅覚障害、不妊症、網膜色素変性症など)を引き起こすことがあります。男性では、精子の鞭毛構造に異常が生じ、男性不妊を生じる場合があります。


Gene Reviewsによると、PCDの確定診断は、上述した特徴的な臨床症状に加えて、①透過型電子顕微鏡による線毛の構造異常、または②PCDと関連があるとされる遺伝子の変異のいずれかが証明されることと規定されています。


根本治療はないため、線毛機能不全の症状への対処療法が主体となります。上下気道症状には気管支拡張薬と去痰薬が用いられます。さらに感染症予防には、マクロライド系やST合剤などの抗菌薬が投与されることがあります。ただ、いずれも線毛機能の改善は期待できないため、再発しやすいです。

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