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心房細動と心原性脳梗塞について

心房細動は高齢者によく見られる不整脈です。心房細動それ自体は致死的ではないものの、めまい、動悸、運動耐容能低下などの症状から日常生活の質が低下します。また心房細動はしばしば頻脈となります。これが持続すると心機能低下から心不全に至ります。さらに心房細動の大きな合併症は、左心耳からの塞栓による心原性脳梗塞です。一度脳梗塞を起こすと致死的か重度の身体機能障害を残すことが多いです。


心房細動は高齢者に多いですが、その罹患率は60歳を過ぎると指数関数的に増加します。80歳以上の男性の心房細動罹患率は、4~5%以上に達するといわれます。


脳梗塞(cerebral infarction)は、ラクナ梗塞(lacunar infarction)、アテローム血栓性脳梗塞(atherothrombotic brain infarction)と心原性脳梗塞(塞栓)(cardiogenic cerebral infarction, emboli)の3つに大別されます。特に、心原性脳梗塞の予後は不良で、その患者の1年生存率は50%といわれています。心原性脳梗塞の75%に持続性心房細動または発作性心房細動の合併が認められます。

心原性脳梗塞は、心房細動を原因として心臓の左心房内で形成されたフィブリン塊の血栓が栓子として遊離し、突然大きな脳血管を閉塞します。このため灌流域全域にわたり重度の虚血を起こします。広範な梗塞巣を形成するため重症例が多くなります。


心原性脳梗塞の原因としては、弁膜症性および非弁膜症性心房細動、心筋梗塞、心室瘤、人工弁置換術後、拡張型心筋症、心房中隔瘤、感染性心内膜炎などがあげられます。昔は小児期に発症したリウマチ熱の後遺症からのリウマチ性弁膜症、特に僧帽弁狭窄症が原因となる頻度が高かったですが、僧帽弁狭窄症が激減した近年では、ほとんどが非弁膜性心房細動に起因すると考えられています。


心房細動単独でも、脳梗塞の危険因子となります。発症リスクは5.6倍と報告されています。心房細動は40歳ころから発症頻度が高くなり、70歳を超えると著増しますが、同様に年齢が増すにつれて心原性脳梗塞の頻度も高くなります。少子高齢化社会の現代は、心原性脳梗塞の発症頻度が高い時代といえるでしょう。


心房細動単独でも、脳梗塞の危険因子となりますが、その他のリスクが集積することでも、脳梗塞の発症頻度が高まります。CHADS2スコアで評価すると、スコア0 点では脳梗塞年間発症率が1.9%であるのに対し、スコアが上がるにつれ発症率が増加し、6点では18.2%に至ったとの報告もあります。


CHADS2スコアで低リスクが予測されたとしても、脳梗塞の重症度に有意差は認められません。心房細動から、いったん脳梗塞を発症すると重症化しやすいため、抗凝固療法の適応を考慮しなければなりません。ワーファリンなどの抗凝固薬の投与が必要です。また、手術としては、心臓カテーテルアブレーション術が考慮されます。心房細動に対する心臓カテーテルアブレーション術では、左心房まで血管カテーテルを挿入し、主として肺静脈開口部を焼灼する操作を行います。


(参考) CHADS2は、心房細動による脳梗塞発症リスクを評価するスコアとして提唱されました。脳梗塞発症に関連する5つの重要な危険因子の頭文字からCHADSと命名されました。

  • 心不全/左室機能不全(Congestive heart failure/LV dysfunction)・・・1点

  • 高血圧(Hypertension)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1点

  • 年齢(Age)[年齢75歳以上]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1点

  • 糖尿病(Diabetes mellitus)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1点

  • 脳梗塞/一過性脳虚血発作の既往(Stroke/TIA)・・・・・・・・・・・2点

各危険因子に1点あるいは2点が付与され、その合計点数が高いほど脳梗塞の発症リスクは高くなります。日本循環器学会編「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)」によると、CHADS2スコア1点でワルファリンの投与を考慮可、2点以上でワルファリンの投与を推奨とされています。


Gage BF et al.: JAMA 2001; 285: 2864-2870.

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