ナルコレプシー
- 牧野安博MD&MBA

- 46 分前
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ナルコレプシーは、日中の強い眠気や突然の睡眠発作を主な症状とする神経疾患であり、覚醒と睡眠の制御異常によって生じる中枢性過眠症の一つです。レム睡眠(REM sleep)が異常に出現することで、入眠時幻覚や睡眠麻痺といった症状も現れます。本疾患は、「情動脱力発作(カタプレキシー)」の有無により、ナルコレプシー1型(NT1)とナルコレプシー2型(NT2)に分類されます。NT1ではカタプレキシーが認められ、脳脊髄液中のオレキシン(ヒポクレチン)A濃度が著しく低下しているのが特徴です。一方、NT2ではカタプレキシーを伴わず、オレキシン濃度は正常範囲内に保たれます。
ナルコレプシー1型(NT1)
日中の過度の眠気が3か月以上持続し、以下のいずれかを満たす
① MSLTで平均睡眠潜時≤8分かつSOREMPsが2回以上
② 髄液中オレキシンA濃度が110 pg/mL未満
ナルコレプシー2型(NT2) ①日中の眠気が3か月以上持続し、MSLTで所見が陽性
②カタプレキシーおよびオレキシン欠乏はなし
③他の原因(精神疾患、薬物など)を除外

原因としては、視床下部に存在するオレキシン産生ニューロンの脱落が主な病態とされ、自己免疫的な機序の関与が強く示唆されています。特にHLA-DQB1*06:02という遺伝子型との関連が深く、NT1患者の大多数がこの遺伝子を保有しています。発症は多くの場合、思春期から青年期にかけて認められますが、成人期に初発することもあります。日本では欧米諸国と比べて比較的有病率が高く、人口の約0.16%に見られると報告されています。
主な症状には、日中の耐えがたい眠気に加えて、情動によって突然筋力が抜けるカタプレキシー、入眠時や覚醒時の睡眠麻痺、鮮明な入眠時幻覚、そして夜間睡眠の断片化が挙げられます。これらの症状は、生活の質に深刻な影響を及ぼします。
診断には、まず夜間ポリソムノグラフィー(PSG)による他の睡眠障害の除外と睡眠構造の確認が行われ、その後、反復睡眠潜時検査(MSLT)によって日中の睡眠潜時と入眠時レム睡眠(SOREMPs)の有無を評価します。さらに、脳脊髄液中のオレキシンA濃度測定や、HLA遺伝子型の検査も診断の補助として用いられます。国際睡眠障害分類(ICSD-3)に基づいた診断基準により、NT1とNT2の区別がなされます。
治療は症状の軽減と生活の質の向上を目的とし、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行います。薬物療法としては、モダフィニルやソルリアムフェトールなどの覚醒促進薬が日中の眠気に対して有効であり、カタプレキシーには三環系抗うつ薬やSNRIなどのレム睡眠抑制薬が使用されます。生活指導では、日中に計画的に短い仮眠を取ること、規則正しい睡眠習慣を保つこと、職場や学校での配慮を受けることなどが推奨されます。
ナルコレプシーは現時点では根治が困難な慢性疾患ですが、適切な治療と支援により、多くの患者が学業や仕事、日常生活を維持することが可能です。ただし、長期的には抑うつや不安障害といった精神疾患の合併が多く、また眠気による交通事故や労災のリスクが高まるため、医療的支援だけでなく社会的な配慮も重要です。早期診断と包括的な治療介入が、予後の改善につながるとされています。
ナルコレプシー診断に必要な検査と基準
検査名 | 異常所見 | 用途 |
PSG | REM潜時短縮、睡眠断片化 | 他疾患除外 |
MSLT | 睡眠潜時≦8分、SOREMP≧2 | 診断基準 |
オレキシンA測定 | ≦110 pg/mL | NT1診断補助 |
HLA-DQB1*06:02 | 陽性 | 感受性遺伝子 |
(参考文献)
1. American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders, Third Edition (ICSD-3). Darien, IL: AASM; 2014.
2. 日本睡眠学会. 過眠症診療ガイドライン2023年改訂版.
3. Scammell TE. Narcolepsy. N Engl J Med. 2015;373(27):2654–2662.
4. Bassetti CLA, et al. Narcolepsy—clinical spectrum, aetiopathophysiology, diagnosis and treatment. Nat Rev Neurol. 2019;15:519–539.
5. Thorpy MJ, Dauvilliers Y. Clinical and practical considerations in the diagnosis of narcolepsy. Sleep Med Clin. 2021;16(1):1–10.

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