アルコール依存症とうつ病
- 牧野安博MD&MBA
- 6月12日
- 読了時間: 5分
更新日:3 日前
アルコール依存症とうつ病は密接に関連しており、互いに影響を及ぼし合うことが知られています。アルコール依存症はうつ病の発症リスクを高める一方で、うつ病はアルコール依存症を助長することがあり、このような関係は「共存症(コモービディティ)」と呼ばれます。

アルコールは脳内の神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンに影響を与え、長期的に飲酒を続けることで抑うつ状態を引き起こしやすくなります。特に、神経伝達物質のバランスが崩れることで気分の落ち込みが強まり、さらに、飲酒が原因で仕事や人間関係が悪化すると、社会的孤立が進み、抑うつ症状が悪化することもあります。また、アルコール依存症の人が飲酒をやめた際に現れる離脱症状の中には、不安や抑うつ、睡眠障害が含まれるため、これがさらなる精神的苦痛を引き起こす要因となります。
アルコール依存症のアルコール離脱症状(禁断症状)は、長期間にわたり大量に飲酒していた人が急に飲酒をやめる、または大幅に減らしたときに現れる身体的・精神的な症状です。離脱症状は飲酒を再開する大きな要因となり、重症化すると生命の危険を伴うこともあります。アルコール離脱症状の主な症状を軽度、中等度から重度までに分けて次に列挙します。
1. 軽度の離脱症状(飲酒中止後6~12時間以内に発症)
飲酒をやめた直後から数時間以内に現れる症状で、一般的には以下のようなものがあります。
手の震え(振戦):特に指先や手が細かく震える(振戦せん妄の前兆となることも)。
発汗:異常に汗をかく。
動悸:心拍数の増加や不整脈を感じることがある。
不安・焦燥感:落ち着かず、イライラする。
頭痛・吐き気:軽い二日酔いのような症状。
不眠:寝つきが悪くなり、途中で目が覚めやすい。
食欲不振:胃腸の調子が悪くなり、食べ物を受け付けない。
2. 中等度の離脱症状(24時間以内に発症)
飲酒を中止して1日ほど経つと、さらに強い症状が現れることがあります。
幻覚(幻視・幻聴・幻臭):実際にはないものが見えたり、聞こえたりする。特に「小さな虫が這う」「人の声が聞こえる」などの幻視・幻聴が多い。
強い不安・抑うつ:極端な不安感や抑うつ気分に襲われる。
軽い意識混濁:ぼーっとする、集中力が低下する。
高血圧:血圧が上昇し、めまいや頭痛を伴うことがある。
発作(アルコール離脱けいれん):突然のけいれん発作を起こすことがある(てんかん発作に似た症状)。
3. 重度の離脱症状(48~72時間以内に発症)
重度のアルコール依存症の人が急に飲酒をやめた場合、「アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)」という危険な状態に陥ることがあります。
意識障害・錯乱:自分がどこにいるのかわからない、時間の感覚がなくなる。
激しい幻覚:人や動物の幻が見えたり、恐ろしい声が聞こえる。
重度の興奮・攻撃性:理由もなく怒りっぽくなり、周囲に暴力的になることがある。
極端な発汗と発熱:体温が上がり、異常に汗をかく。
重度の高血圧・頻脈:心拍数が急激に増加し、心臓発作のリスクが高まる。
昏睡・死亡のリスク:適切な治療を受けないと、意識を失い、最悪の場合は死亡することもある。
一方で、うつ病を抱える人は、その症状を和らげるためにアルコールを過剰摂取することがあり、結果的に依存症へと進行しやすい傾向があります。アルコールの一時的な鎮静作用によって気分が楽になることがあるため、ストレスや不安を感じたときに飲酒する習慣がつきやすくなります。しかし、これは長期的には依存を助長し、かえってうつ症状を悪化させる結果を招くことが少なくありません。
こうした相互関係により、アルコール依存症とうつ病を併発するケースは多く、アルコール依存症の患者は一般人口に比べて2〜3倍の確率でうつ病を発症しやすいとされています。逆に、うつ病患者の20〜40%がアルコール依存症を併発しているというデータもあり、特に自殺リスクが高まる点が大きな問題となっています。アルコールが理性を抑制する働きを持つため、衝動的な自殺行動につながることも少なくありません。
このように、アルコール依存症とうつ病は切り離せない関係にあり、どちらか一方の治療だけでは十分な改善が得られにくいため、両者を並行して治療することが重要です。アルコール依存症だけを治療しても抑うつ症状が残り、結果的に再飲酒につながることがある一方で、うつ病の治療だけを進めてもアルコール依存が続く限り、薬物療法や心理療法の効果が十分に得られないことがあります。
治療には、認知行動療法(CBT)を用いて飲酒をコントロールし、ストレスへの適切な対処法を身につけることが有効です。また、抗うつ薬の中でもアルコールと相互作用しにくいSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などを用いることが推奨されます。さらに、アルコール依存症の回復をサポートする自助グループ(AAなど)への参加や、規則正しい生活習慣を整えることも治療の一環として重要です。
アルコール依存症とうつ病の関係を理解し、早期に適切な治療を受けることで、回復の可能性を高めることができます。もし自身や身近な人がアルコールの問題とうつ症状に悩んでいる場合は、専門医に相談することが大切です。
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