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医学豆知識メルマガVol.204 停留睾丸

精巣(睾丸)は、胎生早期には腎臓と同じく第2腰椎の高さにあります。腎臓はその後回転しながらやや上行し、精巣は長い道程を経て下降して、出生時には陰嚢内に収まります。精巣が下降する理由は、思春期(12歳~15歳頃)になって精子を作り出す場合に、精巣の温度が体温より1~2度低い環境が必要なためです。この生理的精巣下降に障害があって、精巣が高い位置に停留したままの状態を停留精巣(停留睾丸)といいます。

特に症状はなく、多くは定期健診の際に陰嚢内に精巣が触れないことから診断されます。精巣の正確な位置確認には超音波検査やCT検査、MRI検査等が行われることがあります。2歳ぐらいに、陰嚢内に精巣が触れたり、触れなかったりする場合には、移動性精巣・遊走精巣と呼ばれこれは、筋肉の一時的な反射によるもので小学生まで続き、基本的には治療は必要のない疾患です。



原因・分類

男性ホルモンの分泌不全や、精巣を陰嚢に固定する靭帯の付着、鼠径(そけい)管の通過障害、腹腔内圧等が考えられていますが、ほとんどは原因不明の特発性のものといわれています。存在部位による分類としては、高い順に、腹腔内精巣、鼠径管内精巣、鼠径管外精巣という分類や、片側性停留精巣(右が少し多い)、両側性停留精巣、という分類や、触知精巣、非触知精巣という分類もあり、手術の術式にも影響してきます。

疫学

通常男子では100人に3~5人(約4%程度)認められますが生後6ヶ月頃までに自然治癒することもあり、1歳頃には1人(約1%)まで減少しますが、それ以降は自然には下降しないと言われています。しかし、出生時体重が 2,500グラム未満の低出生体重児の場合は約20%と高率で、37週未満で出生した場合にも20~30%と高頻度に認められる疾患です。停留精巣のある男児のうち半数は右側の精巣だけが停留しており。1/4は左右両方とも停留しています。

合併症

停留精巣では、高い率で鼠径ヘルニアを合併しています。また、精巣が陰嚢にしっかり固定されていないので捻じれやすく、精巣捻転が生じやすくなります。精子形成の障害により、不妊症になりやすいともいわれています。また、停留精巣(未治療、治療の両者を含む)に発生する精巣腫瘍の発生率は一般人口に比べ、少なくとも4倍高いと言われています。(停留精巣診療ガイドラインより)

治療と予後

生後6ヶ月頃までに精巣が自然に降りてこず、腹部のなかに留まっている場合には、1歳前後に精巣を陰嚢まで下す手術が行われます。精巣を足の付け根に触知できる場合は精巣固定術を行います。精巣を触知できない場合には、内視鏡を入れて精巣を探し、精巣があれば陰嚢内に固定する手術を行います。

日本小児泌尿器科学会の停留精巣診療ガイドラインでは、精巣固定術により、精巣の悪性化のリスクを軽減できるという明確なエビデンスはないものの、片側停留精巣に対して、10歳以降に精巣固定術を受けた男性では、10歳未満に精巣固定術を受けた男性に比較して、有意に精巣腫瘍発生のリスクが高い(オッズ比6.75)が、10歳未満で精巣固定術を受けていれば、精巣腫瘍のリスクは停留精巣の既往歴のない、一般集団におけるリスクを越えない(オッズ比0.6)と報告されています。

引受査定のポイント

現症の場合、死亡保険系は標準体での引受で問題ないと考えますが、医療保険は部位不担保等の条件付、がん保険は延期としたほうがよいでしょう。既往症については死亡保険も医療・がん保険も引受可として問題ないでしょう。(通常は10歳までには手術をしていると考えられるため)

本メルマガの内容については、配信日現在の医療情報、医療事情及び医療環境等のもとで記載しており、将来的な約束をするものではありません。また、あくまでも一般的な内容であり、個々のケースや保険会社各社様によって基準は異なることをご承知おきください。2019年12月


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