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医学豆知識メルマガVol.218 腰部脊柱管狭窄症

背骨は、椎骨と、それをつなぐ椎間板や黄色靭帯などで構成されており、その内側には脊髄や脊髄から分かれる神経の通り道である「脊柱管」というトンネルがあります。腰部脊柱管狭窄症とは、脊柱管が腰のあたりで狭くなることで、慢性的に神経組織の循環不全が生じ、その結果として臀部や下肢のしびれ・痛みなどが出る症候群です。



疫学・症状

高齢になるほど患者の数は増えます。50歳代から徐々に増え始め、60~70歳代に多くみられます。高齢者の10人に1人は腰部脊柱管狭窄症であり、推定患者数は約580万人ともいわれます。加齢や仕事による負担、腰の病気などにより、背骨が変形することで脊柱管が狭くなります。そのせいで、中の神経が圧迫されて血流が悪くなり、腰や足の痛み、しびれなどの症状が起こりますが、圧迫される神経の場所によって、症状の表れ方が異なります。腰を通る神経は足につながっているため症状は足に出るのです。腰の骨は5つありますが、1番目、2番目、3番目あたりでは太ももの辺りにしびれや痛みが出やすいです。4番目、5番目の骨のあたりでは膝から下の部分にしびれや痛みが出やすいという特徴があります。この病気の主な症状は腰痛と脚の痛みとしびれですが、進行すると脚の筋肉が麻痺して動かしにくくなったり、尿意・便意が感じにくくなったりします。また特徴的な症状に間歇性跛行があります。 

原因

腰部脊柱管狭窄症では、さまざまな原因により、腰の部分でこの脊柱管の幅が狭くなります。腰を伸ばした姿勢ではとくに脊柱管が狭くなりやすいため、中にある神経が圧迫されると、神経症状が出ます。腰を屈める姿勢は脊柱管が広くなりやすいため、症状の改善が得られます。加齢による変形性腰椎症、背骨どうしの間にある椎間関節や靭帯の肥厚、椎間板の突出、腰椎分離症、腰椎すべり症、など、いくつかの状態が組み合わさって症状に寄与しています。

検査と診断

 問診で腰痛の有無、下肢痛、しびれの有無およびその部位、範囲など特徴的な症状を確認します。間欠性跛行の有無は特に大事な症状です。身体診察では下肢の筋力低下の有無、知覚障害の有無を評価、確認します。X線検査では、背骨全体の並びやバランス、骨の変形の程度、椎間板の狭小化の有無などを見てゆきます。X線検査によってある程度は確認できますが、より詳しく診断するためには、MRI検査が必須となります。MRI検査では、脊柱管内の神経や椎間板が撮像されますので脊柱管狭窄の程度が最も良く確認できます。MRIのみで診断が困難であった場合や術前に脊髄腔に造影剤を注入してその様子をX線で調べる脊髄造影、骨の微細な構造が確認できるCTの画像検査を実施します。また、閉塞性動脈硬化症などと言った血管の病気によって脊柱管狭窄症に似た症状が出現することもあるため、その鑑別のために血管の検査を行うこともあります。

治療 保存療法 / 手術療法

<保存療法>

保存療法としては、局所麻酔剤などを注射する神経ブロック、鎮痛薬や血行を促進する薬などによる薬物療法、コルセットなどを装着する装具療法、腰回りの筋力を維持して症状を緩和するためのストレッチやリハビリテーションなどがあり、症状が軽い場合は保存療法で改善することもあります。保存療法を続けても改善が見られない場合や、症状が悪化して歩行や日常生活に支障を来す場合には手術治療が検討されます。特に間欠性跛行が顕著な場合は手術による脊柱管拡大が推奨されています。


<手術療法>

脊柱管狭窄症の手術には、主に、脊柱管を圧迫している骨や椎間板、靭帯などを切除して脊柱管を広げ、神経の圧迫を取り除く「除圧術」と、脊柱管を広げた後に金属やボルトで背骨を固定する「除圧固定術」があります。近年では、内視鏡を使って手術の際の切開を最小限に抑える「低侵襲手術」も行われるようになっています。この手術の利点は、筋肉の損傷を最小限にして、出血量の低減、術後疼痛の軽減、早期離床、早期退院、早期の社会復帰が期待できることです。低侵襲脊椎手術を行えるのは腰部脊柱管狭窄症の中で神経の圧迫が1箇所もしくは2箇所で、背骨自体の変形、不安定性が重症でない場合です。3箇所以上の神経の圧迫が存在したり,横に大きく背骨がゆがむ側弯症を合併している場合はこの方法は難しくなります。ただし、手術によって完全に症状を取り去れるとは限りません。とくに、神経への強い狭窄が長期間続き、安静時にも足のしびれがある場合は、手術後も症状が残存しやすい傾向があります。手術後、年齢をかさねると、症状が再発する可能性もあります。また、手術には、神経を傷つけることによる下肢の麻痺、排尿・排便障害や、感染による術後椎間板炎など、合併症が起こるリスクもあります。  

引受査定のポイント

日常生活が身体的に自立できているかを見極めましょう。

治療の内容と期間から合併症に留意し、職業に従事できているかなどで程度を判断します。

現症、既往症と手術後の場合によって部位不担保の期間が変わります。

医療保険の引受査定では、部位不担保5年~全期間、完治の告知があっても部位不担保は2年程度が目安になります。


本メルマガの内容については、配信日現在の医療情報、医療事情及び医療環境等のもとで記載しており、将来的な約束をするものではありません。また、あくまでも一般的な内容であり、個々のケースや保険会社各社様によって基準は異なることをご承知おきください。2024年2月


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