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僧房弁閉鎖不全症

僧房弁閉鎖不全症とは、僧帽弁が完全に閉鎖されないために、一度左心室へ送り出された血液が左心房内へ逆流する病気のことです。主な原因としては、僧帽弁逸脱症です。これは、僧帽弁を支える「腱索」という組織が切れたり伸びたりして、僧帽弁の位置がずれてしまうことによって起こります。この腱策断裂は、粘膜性変性、リウマチ熱、感染性心膜炎、バーロー症候群(Barlow’s syndrome)やマルファン症候群(Marfan syndrome)、心筋症、虚血性心疾患などが原因となって起きる場合もあります。

手術を受けずに内科療法のみで経過された患者の生命予後の報告によると、重症の僧帽弁閉鎖不全症患者の場合、寿命が短くなることや他の合併症の出現が指摘されています。10年間での死亡率は43%ですが、1年あたりで見ると6.3%と非常に高くなっています。さらに、10年以内に心不全を起こす割合が6.3%、不整脈を起こす割合は30%、脳梗塞などの塞栓症を起こす割合が12%という結果が出ています。重症例の中でも重い自覚症状を有する患者ではさらに予後は悪く、5年あたりの死亡率は86%と非常に高い数値です。無症状の僧帽弁閉鎖不全症でも、中程度以上の逆流を生じている場合の寿命は短くなります。そのため症状の如何に関わらず、治療を行うことが望ましいです。


軽症の場合は症状を感じないので、気付かない間に病状が進行します。進行すると運動時に息が切れるようになり、更には運動時だけでなく、散歩や着替えなどの軽い動作時にも呼吸が苦しくなります。加えて、就寝時に急に呼吸困難となる夜間発生性呼吸困難を起こし起坐呼吸をするようになります。これは肺うっ血が進行した症状です。進行悪化すると、しばしば心房細動や心不全を起こします。


主に心臓エコー検査で診断します。これにより弁の大きさや長さ、硬さの程度、逸脱の有無や逆流の程度など多くの項目を調べることができます。これらの情報を総合して、主たる原因や重症度を判断します。経食道心エコーや心臓カテーテル検査を行い、より詳細に弁や心臓の状態を観察することもあります。また、原因となっている他の疾患(不整脈)がないかを調べるために心電図検査も行います。


僧帽弁閉鎖不全症の治療については、患者さんの状態に応じて方法を選択します。「MitraClip®を用いた経皮的僧帽弁接合不全修復術」が2018年4月に保険適用となり、内科的治療が開始しています。この僧帽弁閉鎖不全症を改善するカテーテル治療は、外科的弁置換術・形成術の危険性が高い、もしくは不可能と判断された場合に適応となります。症状が軽度であれば、薬による治療を行います。心臓の負担を減らす薬や不整脈を予防する薬、血液を固まりにくくし、血栓を予防する薬を用います。


症状が進行している場合は、外科手術が適応されます。僧帽弁形成術は自らの弁を利用して行う手術で、僧帽弁の逆流の原因となっている部分を切り取って縫い合わせたり、広がった弁輪を縮小したりして僧帽弁がきちんと動作するようにする手術です。弁置換術に比べて術後に感染症や血栓塞栓症が発生する危険性が低く、手術後の回復も早いというメリットがあり、形成術が可能な場合はこれが第一選択となります。ただし技術的に高度なことと、全ての患者さんに行えるとは限らないので、形成術が行えない場合には弁置換術を実施することとなります。弁置換術は僧帽弁を切り取って、代わりに人工弁(機械弁または生体弁)を縫い付ける手術です。最近は切開部分を小さくし、なるべく身体への負担を減らす術式(MICs)も多く行われています。





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