褐色細胞腫と傍神経節腫は、それぞれ副腎髄質あるいは傍神経節のカテコールアミン産生クロム親和性細胞から発生する腫瘍です。ICD-O3.2からは、ともに/3 に分類されている悪性新生物です。ICD-O3.2は、次のとおりです。
褐色細胞腫(Pheochromocytoma) 8700/3 (ICD-O3.2~)
傍神経節腫(Palaganglioma) 8680/3 (ICD-O3.2~)
傍神経節腫は、副腎内の神経組織や付近の血管と神経に発生します。副腎に発生した傍神経節腫は褐色細胞腫と呼ばれます。副腎の外部に発生した傍神経節腫は、副腎外傍神経節腫と呼ばれます。一般に副腎外傍神経節腫のことを傍神経節腫と呼びます。
傍神経節腫瘍は、カテコラミン産生腫瘍の1つで、副腎髄質以外の自律神経系の傍神経節より発生する稀な腫瘍です。近年の画像診断の進歩に伴い偶然発見されることがあります。臨床的に無症状の場合には、本症が画像診断されることは少ないです。70%以上が横隔膜下の腹部大動脈周囲に生じます。
褐色細胞腫は、副腎外発生、両側性発生、悪性腫瘍、家族内発生、小児発生の頻度がそれぞれ10%と報告されています。この統計的理由から10%病とよばれます。収縮期・拡張期ともに上昇する高血圧(hypertension)の持続、代謝亢進(hypermetabolism)による頻脈・やせ・便秘、高血糖(hyperglycemia)、頭痛(headache)、発汗過多(hyperhydrosis)の症状がでます。これらの症状から褐色細胞腫は5H病とも呼ばれます。日本では年間発生数は約3000例と報告されています。褐色細胞腫および傍神経節腫患者の10 ~ 30% は、MEN2などの遺伝性症候群を有しています。
慢性的なカテコールアミン過剰状態は、心筋障害、心不全、虚血性心疾患、高血圧、高血糖を起こし、脳心血管イベントの発生リスクとなります。
高血圧症患者の1%未満に見つかります。降圧剤としてβ遮断剤が投与されることがありますが、この疾患ではβ2受容体刺激による血管拡張作用が失われ、α1受容体刺激による血管収縮作用が優位になり急激な血圧上昇を引き起こします。さまざまな誘因により高血圧クリーゼを起こすことがあります。一方、無症候性、血圧値正常で、腹部画像検査の副腎偶発腫瘍として見つかることも少なくないです。
2次性高血圧の原因となる疾患の1つです。アドレナリンが分泌されるからと考えれば分かりますね。その他に原発性アルドステロン症、クッシング症候群、腎血管性高血圧などが2次性高血圧の原因となります。近年、腎動脈にまとわりつく交感神経を焼灼する高血圧手術治療が行われるようになりました。腎交感神経焼灼術(renal denervation; RDN)と呼びます。
尿中のバニリルマンデル酸(VMA)、メタネフリン、ノルメタネフリンが上昇しているかを検査します。これらが上昇している場合に褐色細胞腫を疑います。メタネフリン、ノルメタネフリンはノルアドレナリン、アドレナリンの代謝産物で、VMAになる前の中間代謝産物です。尿中VMA はカテコールアミンの最終代謝産物です。カテコールアミン産性腫瘍の診断と経過観察に用います。
クロニジン試験にて機能検査を行います。クロニジン試験とは、α2受容体刺激薬クロニジンにより脳幹のα2受容体を刺激してノルアドレナリン分泌を抑制する試験です。通常ではカテコールアミン分泌が減少しますが褐色細胞腫では無反応となります。また、部位診断としてCT、MRI、副腎シンチ(131I-MIBG)などの画像診断検査を行います。
原則的には病側副腎摘出術を行います。比較的小さな褐色細胞腫に対しては、腹腔鏡下副腎摘除術が行われます。摘出ができない場合には、過剰カテコールアミン作用を阻害するために、α1遮断剤を第一選択薬として用います。降圧が不十分な場合、Ca拮抗薬を併用します。頻脈・頻脈性不整脈、心筋障害、心不全、虚血性心疾患合併例でβ遮断薬を併用します。
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