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フィッシャー症候群

漁師(fisher)は、魚を獲る職業の人のことですが、「フィッシュ!鮮度100%ぴちぴちオフィスのつくり方」という経営書が話題になったことが過去にありました。パイクプレイスフィッシュマーケット(Pike Place Fish Market)の水産市場が舞台、魚を売る職業の人達の話で職場に活気を与える物語でした。彼らの事業所となる水産市場の入口にニコニコ顔のマークと怒り顔のマークがあり、「今日はどちらで臨みますか?」と書いてあります。あなたはどうしますか。「今日1日を素晴らしい日にする選択」はあなた自身にかかっています。本書にはこれを始めとする「フィッシュ哲学」が語られています。


さて、フィッシャー症候群(Fisher syndrome; FS)とは、外眼筋麻痺・運動失調・深部腱反射消失を3徴とする免疫介在性神経症です。FSはCharles Miller Fisherにより1956年に報告されました。多くは上気道感染症後に発症し、1~2週間進展し、その後自然治癒に向かう単相性の経過をとります。先行感染としては、上気道感染が76%、胃腸炎が25%(上気道炎と胃腸炎の重複が12%)、発熱が2%に認められます。感染症状から神経症状の発現までは平均7日間との報告があります。



ギランバレー症候群(Guilan Barre syndrome; GBS)と共通する先行感染や髄液蛋白細胞解離などの特徴を有することから、同症候群の亜型と考えられています。FSの半数では瞳孔異常、顔面神経麻痺、球麻痺を伴うことがあります。また眼球運動障害のみ(急性外眼筋麻痺)、運動失調と腱反射低下のみ(急性失調性神経症)を呈する不全型も存在します。


日本を含む東アジアでは、欧州よりも頻度が高いと考えられています。男女比は2:1で男性に多く、平均発症年齢は40歳(年齢範囲13~78歳)です。FSの年間発症率は、10万人当たり0.5人です。


フィッシャー症候群の発症では、様々な病原体への曝露による感冒様症状が先行し、その後に急性の外眼筋麻痺による複視と運動失調のふらつきが出現して発症します。両側方注視時に複視が起こります。項部硬直、四肢筋力低下、構音障害や嚥下障害は起こりません。腱反射の消失、特に両側性のヒラメ筋H反射消失が見られます。


3徴候のみを呈して経過するフィッシャー症候群は50%で、残りの半数では三徴候以外に脳神経麻痺や四肢の感覚障害を合併する。FSで合併しやすい神経症状は、瞳孔異常(42%)眼瞼下垂(58%)、顔面神経麻痺(32%)、球麻痺(26%)、四肢のしびれ感・異常感覚(24%)との報告があります。


典型的FSで発症したあとに四肢の筋力低下が重層しGBSに移行することもあります。また外眼筋麻痺を伴うGSは、FSの重層した表現型と捉えられます。さらに典型的FSから、意識障害などの中枢神経障害を呈しビッカースタッフ型脳幹脳炎(Bicherstaff brainstem encephalitis; BBE)に移行する症例も存在します。よってFS, GBS, BBEは相互に関連した疾患であることが示唆されます。


80~90%のFS患者に血清に抗ガングリオシドGQ1b IgG抗体が検出されるとの報告があり、現在この自己抗体が診断マーカーとして確立されています。動眼・滑車・外転神経などの眼球の運動神経には、他の脳神経よりもGQ1bが多く発現しています。抗GQ1b抗体が外眼筋麻痺に関与していることが推認されます。FSの運動失調は感覚入力障害によるものと考えられています。頭部CT検査と髄液検査は異常なく、強調運動障害なし、ロムベルグ徴候も陰性です。これらは中枢神経系の異常はなく、FS末梢神経の障害を示唆します。神経伝導検査では感覚神経に軽度の軸索変性型の多発神経障害が見られます。ヒラメ筋H反射は両側性に消失します。抗ガングリオシドGQ1b IgG抗体は、FSの他にGBSとBBEでも高率に認められます。


鑑別診断としては、急性の外眼筋麻痺、運動失調をきたす脳幹あるいは多発脳神経を犯す疾患が対象となります。次のような疾患が鑑別疾患となります。


  • ウエルニッケ脳症

  • 脳幹部血管障害

  • トローザ・ハント症候群

  • 眼窩~海綿静脈洞病変(炎症、腫瘍)

  • 脳動脈瘤(内頚動脈~後交通動脈)

  • 糖尿病外眼筋麻痺

  • 多発性硬化症

  • 視神経脊髄炎

  • 急性散在性脳脊髄炎

  • 神経ベーチェット病

  • ボツリヌス中毒

  • 重症筋無力症

  • 脳幹腫瘍

  • 下垂体卒中

  • 脳血管炎

  • リンパ腫


三徴候を主体とする典型的フィッシャー症候群の自然経過での回復は良好であり、発症から6ヶ月の時点で、眼球運動障害と運動失調はほとんどの症例で消失します。FSの予後は良好で後遺症を残さないと報告されています。


外眼筋麻痺や運動失調は治療しなくても1~3カ月以内に自然に軽快するのがふつうです。早期回復や重症化の抑制を期待して、免疫ブロブリン大量療法や血漿交換療法が実施されます。





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