顕微鏡的多発血管炎
顕微鏡的多発血管炎(Microscopic Polyangiitis:MPA)は、主に細動脈や毛細血管などの小血管に炎症を引き起こす壊死性血管炎であり、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)に分類される疾患です。特にミエロペルオキシダーゼ(MPO)に対する抗体であるMPO-ANCAが陽性となることが多く、同じAAVに属する多発血管炎性肉芽腫症(GPA)とは異なり、病理組織学的に肉芽腫形成を伴わない点が特徴です。MPAでは、自己免疫反応を介して活性化された好中球が血管内皮を障害し、結果として臓器障害を引き起こすと考えられています。原因は不明ですが、遺伝的背景に加え、感染、薬剤、シリカ曝露などの環境因子の関与も示唆されています。
MPAは日本を含む東アジア諸国で比較的高頻度に認められ、ANCA関連血管炎の中では最も多くみられます。発症年齢は中高年が中心であり、特に60歳以上の高齢者に好発します。性差は少なく、男女ともに発症します。
この顕微鏡的多発血管炎は多臓器に影響を及ぼし、臨床症状も多彩です。最も頻度が高いのは腎障害で、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)として現れ、血尿、蛋白尿、腎機能障害を伴います。肺への病変としては肺胞出血があり、咳嗽、血痰、呼吸困難といった症状が見られます。また、皮膚には紫斑や潰瘍、末梢神経系には多発単神経炎による感覚障害や運動麻痺、関節痛、まれに消化管病変による腹痛や出血などが出現することもあります。これらの症状は急性に進行することがあり、早期診断と治療介入が極めて重要です。
診断にあたっては、まず血清MPO-ANCAの測定が有用であり、陽性であることが診断の大きな手がかりになります。加えて、血液検査では炎症反応の上昇や腎機能障害、尿検査では血尿・蛋白尿が認められます。肺病変が疑われる場合には胸部CTで両側性のスリガラス影が確認されることが多いです。必要に応じて腎生検などによる組織学的検討を行います。腎組織では半月体形成性糸球体腎炎を認め、免疫沈着を伴わない“pauci-immune”型が典型的です。これらの臨床像と検査結果をもとに、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)といった他のANCA関連血管炎との鑑別も重要です。
治療は病勢の重症度に応じて寛解導入療法と寛解維持療法に分けられます。急性期の重症例では、ステロイドのパルス療法(メチルプレドニゾロン静注後、経口プレドニゾロン)に加え、免疫抑制薬としてリツキシマブまたはシクロホスファミドの併用が推奨されます。肺胞出血など重篤な臓器障害がある場合には、血漿交換療法が考慮されることもあります。非重症例ではステロイド単独やアザチオプリンとの併用療法も選択されます。導入療法後の寛解維持には、アザチオプリンやミコフェノール酸モフェチル(MMF)、またはリツキシマブの定期投与が用いられ、ステロイドの漸減・中止が目指されます。治療中も再発のリスクがあるため、症状の再出現に十分な注意が必要です。なお、MPO-ANCAが再び陽性化しても、症状が伴わなければ必ずしも再発とは判断されません。
治療の進歩により、MPAの予後は大きく改善しており、現在では5年生存率が70〜90%と報告されています。ただし、腎障害の程度が予後に与える影響は大きく、腎機能の早期悪化や透析導入例では死亡リスクが高まります。また、寛解後も再発率が高いため、少なくとも3〜5年間は継続的な経過観察が推奨されます。MPAは多臓器にわたる重篤な疾患である一方、早期発見と適切な治療により、十分に制御可能な疾患でもあります。
(参考文献)
日本腎臓学会編. ANCA関連血管炎診療ガイドライン 2021.
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