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重症筋無力症

疾病概念・原因

 重症筋無力症(myasthenia gravis; MG)とは、末梢神経末端のシナプス前膜と筋膜とで構成される神経筋接合部において、アセチルコリン受容体に対する自己抗体が存在するために、神経筋伝達障害が起こる自己免疫疾患です。全身の筋力低下、筋の易疲労性をきたします。重症筋無力症の有病率は10万人に5.1人です。しばしば胸腺腫を伴い、胸腺腫の有無で治療が変わってきます。大きく眼筋型と全身型の重症筋無力症に分類されます。





疫学・症状・経過

 日本での患者数はおよそ23000人くらいです。小児(5歳未満に一つのピークがあり、全体の7%)・20~50歳代の女性(30歳と55歳にピークがある)・50~60歳代の男性に多く見られます。男女比では1:1.7で女性に多いのが特徴です。初発症状としては眼瞼下垂、複視がみられます。筋力低下は日内変動があり、午前中は軽度ですが午後になるにつれ症状が強くなってきます。ただし筋の萎縮は見られません。全身型の場合、構音障害・嚥下障害・舌筋運動障害(球麻痺)などの症状もみられます。重症化すると呼吸筋の麻痺を起こすことがあります。


検査・診断

 胸部X線検査とCT検査にて胸腺腫・胸腺過形成が見られることがあります。テンシロン試験(抗コリンエステラーゼ阻害薬のテンシロンを注射した時に劇的な改善がおこる)にて症状が改善します。誘発筋電図において、ウェイニング (waning) 現象がみられます。これは反復神経刺激によって起こる誘発筋活動電位の減衰現象です。血清性化学検査においては、自己免疫疾患の証左となる抗アセチルコリン受容体抗体が陽性となります。


治療・予後

 テンシロンは作用時間が短いため治療薬としては使われず、検査のみで使用されます。眼筋型に対しては対症的に抗コリンエステラーゼ阻害薬、低用量ステロイドの投与が行われます。抗コリンエステラーゼ阻害薬を投与する際はクリーゼに注意が必要です。クリーゼとは、感染症などの誘因により重症筋無力症が、急性憎悪して急激な筋力低下、呼吸困難を呈することです。特に重症筋無力症では筋無力性クリーゼといいます。クリーゼの場合は対症的に血液浄化療法や免疫グロブリン静注療法が行われます。

 全身型などについては根治的に拡大胸腺摘出術やステロイド大量療法、免疫抑制薬投与などが行われます。胸腺腫を合併している場合は早期摘出術が必要です。以前は呼吸筋麻痺のために亡くなることもありましたが、医学の進歩によりそのようなケースはまれになりました。

重症筋無力症の予後については、約50%は発病前と同じ状況にまで回復しますが、日常生活の介助が必要になるケースも10%程度にみられます。


査定のポイント

医療保険・生命保険ともにお引き受けは困難です。眼筋型で症状のコントロールが良好であるならば、生命保険に加入できる可能性があります。


(参考)

ランバート・イートン症候群 (Lambert-Eaton myasthenic syndrome; LEMS)とは、肺癌(小 細胞癌)に合併する抗VGCC (voltage-gated Ca Channel) 抗体により、神経筋接合部で電位依存性Ca チャンネルが作動せずアセチルコリンの放出障害が起こり、脱力を来たす疾患です。重症筋無力症と似た症状を示すが、誘発筋電図において高頻度反復神経刺激によって誘発筋活動電位の増強現象(waxing)が起こります。またテンシロン試験は陰性です。

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