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医学豆知識メルマガVol.207 胃MALTリンパ腫

生体内では、抗原(細菌やウイルス)からの刺激に伴い、局所で多種類のB細胞やT細胞が増殖を続けます。それが長期間続き、遺伝子変異でB細胞が抗原からの刺激なしに増殖する能力を獲得すると「リンパ腫」になります。MALT( Mucosa associated lymphoid tissue)とは、粘膜とリンパ球細胞の複合組織のことで、胃MALTリンパ腫とは、胃に発生する粘膜に関連したリンパ組織の辺縁帯B細胞由来の低悪性度リンパ腫をいい、年単位でゆっくりした経過をたどります。

MALTリンパ腫は全悪性リンパ腫の8.5 %といわれています。部位は、大部分は胃(85%)ですが、他に肺、唾液腺、眼窩、皮膚、甲状腺、乳腺、泌尿生殖器が病変になります。また、胃の悪性リンパ腫のうちの約4割がMALTリンパ腫、約5割がびまん性大細胞性B細胞リンパ腫(以下DLBCL)です。


原因

原因の一部には、感染症や炎症が関係していると考えられています。胃MALTリンパ腫ではピロリ菌感染が高く感染頻度は50~100%です。唾液腺や甲状腺のMALTリンパ腫では自己免疫性疾患を高率に合併しています。


症状

胃での病変に起因する症状としては、逆流性食道炎、心窩部の不快感・痛み、食欲不振、体重減少、下血、黒色便等がありますが、Bリンパ腫特有の微熱倦怠感、寝汗といった症状を診断時に生じていることは少ないです。


診断・検査

診断は、胃内視鏡で病変部の生検を行い、病理検査で診断を確定します。通常の病理検査に加えて、さまざまなリンパ球の特殊染色検査や遺伝子の検査等を行います。また、原因と考えられるヘリコバクター・ピロリに関する検査(尿素呼気試験、抗体検査)も行います。胃炎との鑑別は容易ではないため10個以上の生検採取が推奨されます。

鑑別疾患:ピロリ菌による胃炎、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫小リンパ球性リンパ腫等。


治療と予後

病変が胃のみの限局期症例ではピロリ菌の除菌療法が第一選択で、奏効率は70~80%ですが、除菌後MALTリンパ腫が消失するまでの期間は2~3ヶ月から数年と幅があります。除菌治療抵抗症例では、限局期では放射線治療を行い、縮小しなければ化学療法を行います。進行期であれば、濾胞性リンパ腫の治療に準じて化学療法が行われます。

予後は、緩徐な自然経過をたどり、ピロリ除菌が成功して奏功した場合の長期生存割合は90%以上で、再発割合は3%程度です。除菌失敗例のうち、リンパ腫の進展を認めた割合は27%です。DLBCLへ悪性度が変化し、組織学的進展が生じた場合、あるいは当初より組織にDLBCL様の細胞を認める場合には、ステージにより5年生存率が50~90%となります。

引受査定のポイント

現症の場合は、死亡保険は保険金削減などの条件付き、医療保険は部位不担保等での引受を考慮できるでしょう。既往症の場合は、死亡保険は引受可、医療保険は部位不担保の条件付きでの引受~引受可を考慮できるでしょう。

本メルマガの内容については、配信日現在の医療情報、医療事情及び医療環境等のもとで記載しており、将来的な約束をするものではありません。また、あくまでも一般的な内容であり、個々のケースや保険会社各社様によって基準は異なることをご承知おきください。2020年6月


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