心筋緻密化障害とは、心室壁における過剰な網目状肉柱と深い間隙を特徴とする新しい心筋症です。米国心臓病学会(AHA)によると、遺伝性の原発性心筋症(primary cardiomyopathy)に分類されています。原因としては、胎児心筋が緻密な心筋構造になっていく過程が障害され、スポンジ状の胎児心筋が遺残し、逆に、心筋緻密層が低形成で心機能低下が起こると考えられています。遺伝子解析によると、心筋緻密化障害においても、肥大型心筋症や拡張型心筋症で報告されているサルコメア蛋白の遺伝子異常が報告されています。
日本小児循環器学会の希少疾患調査によると、小児期の年間の心筋緻密化障害の発生数は、拡張型心筋症や肥大型心筋症と比較してもほぼ同数が報告されています。小児の心筋緻密化障害の男女比は2:1です。
心筋緻密化障害は、不整脈、心不全、心電図検査異常などを契機として見つかります。臨床経過は、1)次第に心収縮力が低下し拡張型心筋症の病態を呈する、2)壁在血栓のため塞栓症を合併する、3)不整脈、特に致死性不整脈を合併するなど色々経過とともに心機能低下を来し、致死性不整脈や塞栓症の合併も多く、長期予後は不良です。
心筋緻密化障害の小児発症例では、10~15年で約50%が心移植の適応または死亡します。一方、若年発症例は長く無症状で経過し、経過とともに心機能が低下して、成人期に心不全となります。
心筋緻密化障害の診断では、心臓超音波検査が特に有用です。 1)心室壁の1区域以上に広がる著名な肉柱形成と深い切れ込みの間隙 2)心室壁が肉柱と緻密層の2層構造を呈する
3)カラードプラ法で間隙間に血流が確認される
左室壁の特徴的な2層構造は、左室造影検査、CT検査やMRI検査でも観察されます。心筋生検の所見は、線維化、心筋肥大、心内膜の肥厚や心内膜下の弾性線維増殖など非特異的な変化が主体で診断上の意義は乏しいと考えられています。
心筋緻密化障害の治療は、拡張型心筋症に準じた心不全の治療が行われます。利尿薬、ACE阻害薬、β遮断薬などが投与されます。
心筋緻密化障害の複雑な肉柱構造のために、血栓形成が高頻度です。このため抗血小板療法や抗凝固療法を行い、血栓を予防することが重要です。特にアスピリンは、早期から投与開始することが推奨されます。重症例は心臓移植の対象になります。また、高率に不整脈を合併するため、抗不整脈薬、ペースメーカーや除細動器の植え込み留置が必要になる症例があります。
(参考)
廣野恵一ら「小児慢性特定疾病レポジトリーに基づくアンケート結果からみた心筋緻密化障害の臨床像」
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