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心不全とBNP検査

心臓が疲れて、そのポンプ機能に異常を来して循環不全つまり全身に血液が回らなくなった状態が心不全(heart failure)です。もう少し正確に定義すると、次のようになります。


心不全とは「なんらかの心機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」である。


心臓の器質的異常は、急性心筋梗塞や心肥大をさします。また機能的異常は、弁膜症や心房細動をさします。すなわち、心臓の刺激伝導系、心筋、弁と冠動脈のいずれかに異常を来しても心不全になるということです。心臓というポンプが止まります。

心不全の原因となる主な基礎疾患としては、次のようなものがあります。

  1. 弁膜症

  2. 急性心筋梗塞

  3. 心肥大

  4. 心房細動


心不全は急性心不全で発症し、代償化により慢性心不全に移行します。急性増悪と寛解を繰り返しつつ最終的には死にいたります。また経過中に突然死を来すこともあります。慢性心不全の主な症状は、呼吸困難、浮腫などの臓器うっ血による症状と、易疲労感などの低心拍出量による症状です。 人口の高齢化や生活習慣病の増加により、心不全患者数は増加の一途をたどっています。


近年、心不全の重症度を血液検査で測定できようになりました。人間ドックなどの医療機関で導入されたナトリウム利尿ペプチドの検査がそれです。ナトリウム利尿ペプチドには、次の2つがあります。


(1) 心房ナトリウム利尿ペプチド(A型) (atrial natriuretic peptide; ANP)

(2) 脳性ナトリウム利尿ペプチド(B型) (brain natriuretic peptide; BNP)


利尿ペプチドというように、利尿作用を起こすペプチドホルモンです。

脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の血漿レベルは、しばしば肺水腫、特に心原性肺水腫の評価にも用いられます。BNPは、心筋壁の伸展または心内圧の上昇に反応して主に心室から分泌されます。うっ血性心不全患者では、血漿BNP値は左室拡張末期圧および肺動脈閉塞圧と相関します。BNP値が100pg/ml未満であれば心不全の可能性は低い(陰性適中率>90%)が、BNP値が500pg/ml以上であれば心不全の可能性が高い(陽性適中率>90%)と報告されています。しかしながら、100~500pg/mlのBNP値レベルは鑑別診断をするには不十分です。


重症患者では、BNP濃度は慎重に解釈しなければなりません。というのもBNP濃度の適中率がこの患者群では不確実だからです。心不全がなくても重症患者ではBNPが上昇しうることが示されています。これらの患者では、100~500pg/mlの濃度がよくみられます。ある報告では、左室機能が正常な敗血症患者8例全例でBNP値が500pg/mlを超えていました。したがって、重症患者では100pg/ml以下であれば、BNPの測定が最も有効です。BNP値は、心不全から独立した腎不全患者で高く、カットオフ値200pg/ml以下で推定GFR値 60ml/分以下の場合に、心不全の除外を示唆してくれます。また、BNPは右心室からも分泌され、急性肺塞栓症、肺性心、肺高血圧症の患者で中等度の上昇が報告されています。


BNP基準値は、18.4pg/ml 以下です。これを超えるBNP値は次のような評価となります。


18.4~40pg/mlは、直ぐに治療が必要な心不全の可能性は低い。

40~100pg/mlは、軽度の心不全の可能性がある。

100pg/ml~は、治療対象となる心不全の可能性がある。


BNPは腎臓から排泄されるため腎機能が低下すると上昇する傾向にあります。したがって高齢者では高くなります。


したがって以上のことから、人間ドックなどの血液検査でBNP 100pg/dlまでは、ボーダーで引受可と考えております。ただし、心臓、腎臓と肺臓の基礎疾患がない場合に限りますが。500pg/dl以上は要入院のようにも思えます。

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