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悪性中皮腫

胸部や腹部の臓器はそれぞれ、肺を包む胸膜や腹腔を覆う腹膜という膜につつまれています。これらの膜の一番外側を覆っているものを中皮と呼び、その中皮細胞から発生する悪性腫瘍を中皮腫といいます。それぞれ発生部位により、悪性胸膜中皮腫(80~85%)、悪性腹膜中皮腫(10~15%)と呼ばれています。その他に、心膜、精巣鞘膜にも発生しますが極めて稀です。したがって以下は悪性胸膜中皮腫と悪性腹膜中皮腫を中心に説明します。


悪性中皮腫の原因としては、70~80%の症例においてアスベスト曝露との関連性が疫学的に証明されています。アスベストは自然界に存在する鉱物の一つで、石綿とも呼ばれており綿状の形態をした物質です。加工が容易で、保温、断熱、防音を目的として使われていた建材です。


アスベストの加工や解体の際に飛散する物質が発がん性物質として指定され、2006年より全面使用禁止とされています。厚生労働省より石綿健康被害救済法による「救済給付金」と「特別遺族給付金」が設けられています。


アスベストは1980年代半ばまで輸入されており、悪性中皮腫の発症までの潜伏期間が25~50年とされていることから、発生率のピークは2030年頃で、罹患者数は年間3000人に及ぶと予測されています。男女比は圧倒的に男性に多いです。


また、アスベスト以外にも、がんの家族歴がある中皮腫の6%に、生殖細胞系列(Germline) のBAP1遺伝子変異があり、BAP1遺伝子変異の保因者は、その遺伝子変異のない中皮腫患者よりも若く発症し、腹膜中皮腫の比率が高いとの報告もあります。


悪性中皮腫には、その進展の仕方により限局性中皮腫とびまん性中皮腫と2つの型がありますが、後者の方が多いです。


悪性胸膜中皮腫では、胸痛、咳、大量の胸水による呼吸困難や胸部圧迫感、発熱、体重減少がみられます。しかしこれらは特徴的な症状とは言えず、早期発見が難しいです。胸水貯留が診断の契機となることが多いです。一方、悪性腹膜中皮腫では、腹腔内の疾患のため、早期では症状が出ないという特徴があります。進行すると腹水貯留による腹部膨満感、腹痛、腰痛、食欲低下、排便の異常、腹部のしこりなどの症状を呈します。


悪性中皮腫の検査と診断は、アスベスト曝露歴の聴取、単純胸部X線、CT検査、細胞診、生検により診断確定されます。生検は、穿刺吸引生検(FNA)、胸腔鏡検査、腹腔鏡検査、腹壁切開術、開胸術などにより行われます。悪性胸膜中皮腫では、多くの場合、胸水貯留が診断の契機となります。胸水がある場合には、胸腔穿刺により胸水中の細胞を調べて診断の参考とします。最終的には疑わしい組織の一部を生検で採取し病理組織診断で病期と診断を確定させます。


悪性中皮腫は非常に治りにくい病気の一つです。病期により、外科療法(手術)、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)および対症療法などを組み合わせて治療法を決めます。


下表は、悪性胸膜中皮腫の病期分類(UICC TNM分類第8版)になります。

病期Ⅰ期:胸膜や腹膜の1か所に存在する場合は広範囲局所切除術、複数箇所の場合は胸膜肺全摘術を行います。


病期Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期:併用化学療法とベバシズマブを用いる標的療法、腫瘍の縮小化と体液の貯留を防ぐため胸腔内に直接抗がん剤を注入する化学療法、胸腔内への体液貯留を予防するために胸膜癒着術を行うことがあります。一方、腹腔内の悪性中皮腫の場合は腫瘍切除と腹腔内温熱化学療法や、 腫瘍の縮小化と体液の貯留を防ぐため腹腔内に直接抗がん剤を注入する化学療法があります。


悪性中皮腫の病期別5 年生存率は,Ⅰ期14.6%(n=48),Ⅱ期4.5%(n=22),Ⅲ期8.0%(n=50),Ⅳ期0.0%(n=70)といずれも予後不良であることが報告されています。

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